戦争が怖い子供

私の通っていた小学校では、戦争教育というものがあった。
正式に戦争教育というのかどうかわからないけれど、
戦争当時の映像を体育館で見たり、
戦争当時の写真のパネル展などを積極的に実施している学校だったのだ。
それは全員参加という強制的なものではなく、
何ヶ月に一度というスパンで希望者だけが参加するシステムだった記憶がある。
私も親の意向によって参加していたのだと思う。
(低学年は保護者同伴だったので、たぶんそうだと思う)
それは当時7つだった私にかなりの影響を与えた。

まず衝撃。
当時死体というものはテレビでもほとんど見たことがなかったのに、
赤ん坊の首から上がない遺体を背負った小学生の男の子の映像が流れたり、
死体が山になって積み上げられている映像が流れたりする。
しかも映画サイズの大きさで、実際の戦争当時の映像だ。
そこには生々しさがある。
私は当時既にお葬式というものに縁があったけれど、
そんな生々しい死体を見たのは初めてだった。
中にはストーリー仕立ての戦争映画があったりして
100%全て実際の死体ではないけれど、それでもかなりの衝撃だ。

そして不安。
映像の最後には必ず同じような緊迫した女の人のナレーションが入る。
「もしまた同じように戦争が始まったら、
 この悲惨な光景が繰り広げられることになるのです。」
戦争は過去のものではない、これからもまた起きる可能性があるんだ。
そう思うとどうしていいのかわからなくなった。

もし戦争になったら防空壕に入って、息を潜めなくてはならないのか?
お父さん、お母さんはどうなるのか?
そして私も死んじゃうの?
原爆も落ちるかもしれないの?

母親に何気なく聞いてみたらその答えがまた衝撃的だった。
「お母さんはもし戦争になったら逃げ惑って死ぬよりも
 ピカドンで一発で死にたいねぇ」と。

そんな不安がいっぱいになって、何かのきっかけで戦争のことを考え始めると
頭が痛くなる子供になってしまった。
それは授業中も、休みの日でも、ものすごく楽しみにしていた盆踊りの前でも痛くなった。
痛くなると必ず泣いた。
それは痛いから泣くのではなく、不安でどうしようもなくて泣いてしまうのだ。
初めは親もズル休みしようとしてるでしょ、なんて言っていたけれど
さすがに楽しみにしていた行事の前にまで痛くなる私を見て病院に連れて行った。
結果はもちろんどこにも異常がなかった。

そして親に聞かれた。私は今まで言えなかったけれど思い切って
「戦争がきたらと思うと不安になってそしたら頭が痛くなる」
と言ってみた。母は笑うでもないけれど、安心できる答えもくれなかった。
「みんなが戦争したくないと思っていれば絶対に起こらないから大丈夫」
でも私は以前戦争映画で、疎開先の小学生や中学生、
それから都会で暮らす母親や父親もみんなが「戦争は嫌だ」
と思っていたのに、どんどん戦争が進んでいった、というのを見ていたので
それでは安心できなかった。
しばらくは戦争教育はお休みにすることになって、
だんだんと頭が痛くなる回数も減っていった。

そして二年生になり、また戦争教育に参加するようになったのだけど、
その頃はちょっとだけ大人になっていたのか不安は変わらなかったけれど
頭は痛くなることがなかった。
そしてだんだんと大人になってきたのだけれど。
それでもやっぱり今でも不安だ。
世界のどこかで何かが起きたりすると不安になる。
今はそれなりに社会のシステムがわかってきてはいるけれど、
それでも不安なのだから子供の私にしたらやっぱり頭が痛くなるくらい不安なのは今でもわかる。

小さい頃にそういう映像や写真を見るのはものすごくショックだったけれど、
平和への意識や戦争はダメなんだ、人が死んだらこんなに悲しいんだ、
という気持ちを育てる点ではものすごく強い影響力を持っていたと思う。
大人にとってはなんでもない風に過ごせることも、
子供にとってはどうしていいのかわからないことも沢山あると
今になって考えるとすごく思う。
戦争のことだって今になってみたら自分ではどうしようもならないんだから、
なるようになるしかない、という開き直りの考え方もあるけれど
小さい私にはそんな風に物事を見ることは無理だった。
そう思ったら子供の頃の影響力は多大だから、
自分が子供を育てる時にはこのことを忘れないようにしたいと思う。

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